内部通報(公益通報)制度は、社内にはびこる不正をただし改善策を講じる上で、非常に重要な制度です。
企業・組織には、考え方・バックボーンが異なる人間が集まるわけですから、不正を行っている当人に自覚がない場合も含め、基本的に不正は起こるものと考えるのが自然だからです。

実際に、内部通報によって問題が発覚した事例は多く、事例から学べることも数多く存在します。
今回は、内部通報制度を活かすのに役立てたい、内部通報の事例についてご紹介します。

内部通報(公益通報)で発覚した主な事例

内部通報によって発覚する事例の多くは、どの会社・組織でも想定される内容のため、自社で同様の問題が起こったケースをシミュレーションする良い材料となります。
まずは、内部通報によって発覚した問題について、主な事例をいくつかご紹介します。

セクハラに関すること

セクハラに関する事例は、女性から男性に行うものよりも、男性から女性に行うものが圧倒的多数です。
男女共同参画局の統計によると、都道府県労働局雇用均等室に寄せられた職場におけるセクシュアル・ハラスメントの相談件数(平成26年度)は、女性労働者等からの件数が6,725件なのに対して、男性労働者からの件数が618件となっています。

具体的には、派遣社員の女性を正社員の男性がしつこく食事に誘うなど、立場を利用しつつ関係性を強化しようとする例などがあげられます。
より卑劣な例としては、二人きりのタイミングを見計らって身体を触ろうとする ケースなどが該当します。

幸い、前者の例ではコンプライアンス委員会が立ち上がっており、加害者の男性は子会社への異動となっています。
しかし、組合がある企業であっても、組織構造によっては100%労働者が守られるとは限らず、慢性的に社員が不足する例も少なくありません。

パワハラに関すること

パワハラは、数あるハラスメントの中でも圧倒的に被害件数が多く、Job総研が2021年に行った「ハラスメント実態調査」によると、回答者が受けたハラスメントでもっとも多いのがパワーハラスメント(79.7%)という結果が出ています。
特に、精神的な攻撃や嫌がらせに悩むケースは圧倒的多数で、具体的には以下のような内容が目立ちました。

・役職や地位を振りかざす
・第三者がいる場面での罵倒
・個人や能力を否定する

中には、取締役クラスの人物が部下を罵倒している例もあり、相談窓口を使わず文句は直接自分に言うよう指導していたケースも存在します。
最終的に、退職者が数名出た場面で部下の1人が相談窓口に通報した結果、その取締役は退任となりました。

横領・着服に関すること

各種ハラスメントに比べると、横領や着服は労働者側に直接の被害が生じないことが多いため、問題が明るみに出にくい傾向にあると言えるかもしれません。
しかし、横領は重大な犯罪行為であり、警察庁の刑法犯に関する統計資料によると、令和元年の横領の認知件数は1,397件・検挙件数は1,056件となっています。

メディアで報道される大掛かりな横領だけでなく、経費の差額を着服するような事例にも、企業は目を光らせる必要があります。
例えば、正規料金の航空券代を会社に請求した上で、正規料金よりも安い値段で航空券を取得し差額をせしめた場合、それはれっきとした横領になります。

航空券の事例では、社内の交通費に関するルールが明確なものでなかったことから、結局その社員は解雇を免れました。
ただ、当然ながら被害は弁償することとなり、降格処分も受けています。

社員が内部通報(公益通報)を行うハードルは高い

制度として、内部通報制度を立ち上げている企業は多い反面、社員の立場からすると実際に制度を利用するハードルは高いものです。
原因はいくつか考えられますが、主な理由としては以下のようなものが該当します。

現場で働く社員に当事者意識がない

個人としては優秀な社員がいたとしても、複数人が一緒に働いていると、次第に社員の当事者意識が薄らいでいく可能性があります。
心理学における「傍観者効果」は、組織の中でも見受けられる傾向の一つであり、問題が起こっても自ら告発する必要性を社員が感じなければ、ずっと組織は問題を抱えたままになるでしょう。

仕事が細分化されている職場の場合、自分の担当分野以外に興味を持たず仕事をしている社員は、一定数存在しているものと推察されます。
不正をただすアドバンテージがない中では、あえて騒ぎ立てるよりも淡々と日々の仕事をこなしていた方が楽ですから、どんどん社員は貝のように黙ってしまう悪循環が生まれるのです。

他には、良くも悪くも「他の社員に迷惑がかかる」という認識から、内部通報を控えてしまうケースも無視できません。
問題を公にすることで、どこまで話が大きくなってしまうのか不安になり、口を閉ざす社員は決して少なくないはずです。

内部通報(公益通報)制度への信頼度が低い

組織内に長年不正が蔓延している状況が続くと、悪い意味で社員が組織に期待しなくなってしまいます。
そのような社員は、社内で発生した新しい流れにも目を背けてしまい、例えば内部通報制度が導入されてもそれを信頼できないはずです。

そもそも「内部通報(公益通報)制度とは何なのか」を理解していない社員が、一定数存在していることも十分に想定できることです。
本社の支援や制度の実効性を不審に思っている社員にとって、新制度は決して魅力的なものではありません。

各種メディアからの情報によって、内部通報または内部告発を行った結果、悲惨な結末を迎えた通報者がいることも広く知られているでしょう。
本社が内部通報窓口の周知を徹底していなかった場合は、その点も制度への信頼度を低める要因となります。

「正当な内部通報は保護される」旨をアナウンスしなければ、社員は警戒してしまうのです。

内部通報(公益通報)制度を社内で活かすためには

せっかく内部通報制度を導入したのに、思っていたような成果につながっていない場合、企業としてはどのような対策を講じるべきなのでしょうか。
結論から言うと、社員からの評価を集め、それをもとに改善を続けることが解決策となります。

制度の評価を集める

内部通報制度は、社員が十分に制度を信頼していなければ、利用者が増えません。
そのため、定期的に社員の声を集め、制度の問題点や不備などをあぶり出すことが大切です。

具体的には、以下のような方法を検討するとよいでしょう。

・年度ごとに役職者に対してアンケートを実施し、内部通報制度が十分に周知されているか、社員に信用されているかどうか把握する
・内部通報の従事者間で、定期的に意見交換を行い、改善点を検討する
・外部の専門家、もしくは内部の監査部門により、複数の観点から調査を行う

評価をもとに改善策を講じる

運用している制度の評価や改善点が集まったら、従事者の中で改善策を講じます。
また、運用の中で実践した改善策の成果も含め、運用状況や実績は定期的に報告・開示する仕組みを設けるようにしましょう。

具体的な開示内容としては、以下のようなものがあげられます。

・一定期間中の通報件数
・対応した内容のあらまし
・是正措置等
・周知活動

また、運用状況の報告・開示先としては、以下のようなケースが考えられます。

・経営者(代表取締役社長)
・コンプライアンス委員会
・監査役会/取締役会
・株主

可能であれば、社外に向けて情報を発信できるような体制を整えておきたいところです。

外部のサービスを利用する

社内に十分なリソースがあるなら、自前で内部通報窓口を設置するのも一つの方法です。
しかし、周知はともかく適切な運用を継続して行うとなると、従事者の負担は決して小さくありません。

もし、自社で内部通報窓口の設置・適切な運用が難しいと感じた場合、完全匿名ヘルプラインをご検討ください。
20万件以上の通報内容を守り続けてきたノウハウをもとに、通報者のプライバシーや企業のデリケートな部分をしっかり守ります。

通報者は所定の通報フォームを利用するだけで、会社に問題を通報できます。
また、従業員と会社とのやり取りは、完全匿名ヘルプラインを通じて完全匿名で行われます。

通報への対応に悩む事態が発生した際は、弁護士や社労士からのサポートが受けられます。
まずは、30日無料トライアルにお申込みいただき、ぜひ使い勝手の良さを体感してください。

まとめ

内部通報(公益通報)制度を自社で活用するためには、社員が「安心して通報できる」と思えるよう、徹底的に窓口の存在を周知することが大切です。
そのプロセスの中で、他社の事例を紹介すると、社員に内部通報のメリットを周知することにもつながります。

経営者や幹部・役職者は、ルールを守らない社員、ハラスメントを犯す社員に対してどのような措置を取るのか、具体的に説明する必要があります。
事例の存在は、周知活動を行う際、社員の理解を助けることに役立つはずです。