社員または関係者が、外部に企業の問題を通報したことにより、企業が甚大な損害をこうむったケースは数多く報道されています。
特に、マスメディアや警察などに対して企業の不正を告発する「内部告発」は、企業の根幹を揺るがすリスクがあり、告発した側にも多大な負担がかかることが想定されます。

企業の立場としては、内部告発に至るようなことは可能な限り避けられるよう手を打つべきですが、同時に「万が一内部告発をされてしまったら」どう対応するのかを考え、あらかじめリスクを理解しておくことも大切です。
この記事では、企業側・告発側それぞれの視点から、内部告発のリスクについて解説します。

企業側が内部告発された場合のリスク

まずは、企業側が社員・取引先などに内部告発されてしまった場合のリスクについてお伝えします。
内部告発をされてしまうと、企業は告発者だけでなく「自社のことを報道で知った人」すべてに何らかの対応を迫られますから、万一に備え、事前にどんな対応を行うべきか検討しておきたいところです。

自社の大幅なイメージダウン

マスメディアに自社の問題が露見してしまうと、報道前から自社のことを知っている人以外にも、たくさんの人が自社について情報を得ることになります。
しかも、その情報は基本的にネガティブな内容ばかりなので、各種メディアで内部告発の中身を知った人々は、自社のことを「悪い会社」・「問題のある会社」だと認識するでしょう。

仮に、実際には告発者の勝手な勘違いによる告発だったとしても、告発されたという事実自体が、世間に対して非常に大きなインパクトを与えます。
懇切丁寧に説明しても、メディアが意図を捻じ曲げて報道するリスクもあることから、求められる対応は非常にシビアです。

一度企業イメージが低下してしまうと、消費者の信頼を回復するのは非常に困難です。
大幅な赤字で済むならまだしも、場合によっては会社の清算を余儀なくされることもあるため、企業はできる限り未然に内部告発を防ぐ努力が必要です。

告発者への対応の検討

企業に対して大きな損害を与えた、告発者に対する処遇について検討することも、経営陣を悩ませる問題の一つに数えられます。
内部告発自体は、原則として懲戒処分の対象となり得る問題ですが、正当な理由により労働者が不正を告発した場合は、公益通報者保護法に基づいて告発者が保護されるためです。

企業にもよりますが、仮に社員が告発者だったケースについて、少し掘り下げて考えてみましょう。

多くの企業は、いわゆる企業秘密を守るため、社員と秘密保持義務を結びます。
社員が告発者だった場合、企業の業績に影響を及ぼすことから公表が控えられている情報を公開してしまうと、告発者にどのような事情があっても「企業秘密の漏洩」となります。

また、企業の名誉棄損につながるような誹謗中傷を行った場合、こちらも誠実労働義務(就業規則等の社内ルールを守り勤務する義務)に違反している行為となります。
まとめると、企業の機密情報漏洩・企業に対する誹謗中傷のみを目的とした内部告発に関しては、企業が告発者に対して懲戒処分を行うことができます。

しかし、特定の法律に抵触する犯罪行為を企業が行っていて、そのことについて告発を行った場合、国民の生命・身体・財産その他の利益を守る観点から、告発者は保護されます。
企業の立場としては、告発者が正当な立場で告発を行ったのか、それとも企業に対する不満等から告発を行ったのか、事実関係をしっかりと確認する必要があり、そのためのコストも甚大になるでしょう。

顧客や取引先への対応の検討

万一、企業が自社の非を認めず、告発者や世間への対応を誤ると、SNS・各種メディアで情報が拡散され、企業の将来が危ぶまれる事態にまで発展するかもしれません。
SNSでの炎上に対して適切な対応が取れなかったことで、国内の工場を閉鎖してしまうような事態に発展した例もあります。

内部告発によって企業の問題が露見した際、顧客・取引先への対応は、ある意味では告発者以上に気を遣わなければならない問題です。

自社の人間が問題を告発したことにより、取引先もまた営業停止を余儀なくされる可能性がありますし、自社製品のヘビーユーザーがSNS上で叩かれてしまうおそれもあります。
不祥事が露見してすべてを失った人は、テロなどの過激な方法で企業にダメージを与えるかもしれません。

内部告発は、自社と告発者だけの問題にはとどまらず、社会全体を揺るがす大問題となります。
そのため、企業は可能な限り「自社の中に問題をとどめる」ための努力をしなければならないのです。

内部告発した側のリスク

正当な内部告発が法律で保護されるとはいえ、日本社会において内部告発は非常に大きな問題となります。
告発者は、企業の立場から見て「裏切者」と認識されやすい傾向にあり、告発後に以下のような状況に陥るリスクが高くなります。

報復人事または解雇

内部告発を行った後、告発者が自分であることが企業にバレた際、残念ながら誠実に告発者と向き合う企業は少数派であると言わざるを得ません。
日本において、告発者が不幸な結果を迎えるケースは数多く存在しており、家族が犠牲になってしまうケースも見られます。

そこまで極端な結果にはならずとも、報復人事によって左遷されたり、望まない部署に缶詰状態にして自主退職に追い込んだり、企業が陰湿な方法で告発者を自社の中枢から追い出そうとする可能性があります。
告発者自体を亡き者にしようとするような、悪質な体質の企業が存在している可能性もゼロではないため、いわゆるブラック企業と呼ばれる環境で告発を行おうとする場合、身の危険に備えることも求められます。

このようなリスクを承知しながら、身の安全を捨ててまで告発するのは、個人にとって非常に大きな賭けです。
そのため、自分の将来と企業の問題を天秤にかけ、自分の将来を優先する社員は少なくないものと推察されます。

人間関係の崩壊

本来、内部告発という行為は、企業の不正を抑止または露見させる行為であり、企業にとってはむしろ「不正の根を絶てるチャンス」と言えます。
しかし、社内で働いている他の社員たちは、内部告発によって自分たちの生活までおびやかされることをおそれたり、告発者を恨んだりする可能性があります。

日本では、企業や組織が「疑似家族的」な存在となり、構成員の意識を一体化させる役割を担ってきた歴史があります。
そのDNAは、終身雇用の崩壊がささやかれている現代の日本においても一部残されており、内部告発を行った社員を「恩をあだで返す人間」だと認識する社員は少なくありません。

仮に、法律で告発者が保護されていたとしても、組織全体から見れば問題のある人物という認識になるため、これまで告発者が社内で培ってきた人間関係が一気に崩壊するおそれがあります。
最悪の場合、精神的に多大なストレスを抱えたまま、告発者は会社を離れることになるかもしれません。

損害賠償請求または刑事罰

告発者が告発した内容が、直接犯罪行為に結びつくわけではない場合、たとえそれが倫理上問題と思しき内容であったとしても、告発後に法律の保護を受けられない可能性があります。
もし、告発者が法律の保護を受けられない内容で内部告発を行った場合、企業から損害賠償を請求されたり、告発の対象者から告訴され刑事罰を受けたりするリスクが浮上します。

一例として、経営者や一部の管理職が、コネで自分の恋人を部下にして雇っていたとします。
しかし、法律上「自分の恋人を部下として雇うこと」が犯罪行為として認定される可能性は低く、告発が単純な秘密の暴露として取り扱われることも十分考えられます。

また、企業内部で解決を図ろうとする努力をしないまま、社員が告発に踏み切ってしまうと、裁判では「会社側の処分が有効」と判断されるおそれがあります。
非情に感じられるかもしれませんが、内部告発は、個人に対して多大な負担をかける行為なのです。

完全匿名ヘルプラインでリスクを回避

ここまでお伝えしてきた通り、内部告発は企業・告発者それぞれに大きなダメージを与えるため、可能であれば何らかの形で避けたいところです。
そこで重要になるのが「内部通報」の窓口を自社に設けることです。

内部通報の窓口を適切な形で設けていれば、企業が社員を守るための体制を整えていたことを主張でき、告発または訴訟に発展することを避けられます。
また、社内における専用窓口への通報段階で、経営者が自社の問題に気付くことができれば、迅速に不正を正し告発を防げます。

完全匿名ヘルプラインでは、通報者が「完全匿名」で企業に問題を通報できる体制が整っています。
通報者が不利な立場にならないよう配慮することで通報を促すため、問題のある社員や部署をいち早く特定しやすく、社内で解決する段階で問題をスピーディーに処理できます。

企業を内部告発から守るため、内部通報窓口の外部委託を検討されている企業担当者様は、完全匿名ヘルプラインをご活用ください。

まとめ

内部告発は、企業にとって脅威ですが、その原因自体は企業にあります。
一人ひとり、考え方の異なる社員が集まって仕事をする以上、企業では問題が発生するという前提で対策を講じることが大切です。
少しでも社員の意見を集めやすくするために、内部通報窓口の設置については、外部委託も含め速やかに対応しましょう。