企業が内部通報(公益通報)窓口を運用するにあたり、注意しておきたい点の一つとして、匿名の通報が届いた場合の対応があげられます。
匿名の通報であっても、所定の条件を満たしているものと判断されれば、公益通報として認められるからです。

通報者が匿名で通報を行うのは、主に「自分の存在が会社・加害者等に特定されることを避けたい」という思惑からです。
しかし、匿名による通報は総じて信ぴょう性に欠けるため、問題をどう調査して解決すべきなのか窓口担当者が悩んでしまうケースも考えられます。

この記事では、匿名の内部通報(公益通報)がなされた際に、

・そもそも企業は匿名の通報を受け入れる必要があるのか
・企業がどのように対応すべきなのか

上記について解説します。

内部通報(公益通報)において、匿名の通報を受け入れる必要性

自社の内部通報(公益通報)窓口に、匿名の通報が届いた場合、企業は原則としてそれを受け入れる必要があります。
以下、その理由や受け入れるメリット・リスク等についてご紹介します。

公益通報者保護法における匿名通報の有効性

公益通報者保護制度に関しては、消費者庁の「事業者における通報対応に関するQ&A」の中で、以下の通り匿名通報の有効性に関する見解が示されています。

本法は対象となる通報を顕名の通報に限定しておらず、匿名の通報であっても、本法に定める要件を満たせば公益通報に該当します。

※出典元:消費者庁|事業者における通報対応に関するQ&A

また、公益通報の条件に関しては、以下の通り定められています。

・通報者が通報の対象となる事業者へ労務提供している労働者であることのほか、必要と認められるその他の者
・通報に不正の目的がないこと
・法令違反行為が生じ、又はまさに生じようとしていること
・通報内容が真実であると証明できること
・厚生労働省が法令違反事実について処分又は勧告等の権限を有していること

※出典元:厚生労働省|公益通報者の保護

よって、匿名の通報であろうとも、公益通報の条件を満たしていると判断されれば、それは公益通報として企業が適切に対応しなければならない案件となります。

企業で匿名の通報を受け入れるメリットとリスク

企業の側で、匿名の通報を受け入れることには、以下のようなメリット・リスクがあります。

<メリット>
・通報者が匿名で通報できる環境が整うことで、企業は重大なリスク情報を速やかに把握できる
・匿名通報が可能になることで、通報者の通報に対する心理的ハードルが下がり、コンプライアンスの観点から有益な情報が集まりやすくなる
・通報者があらかじめ匿名でのやり取りを希望することで、企業側は情報漏洩の機会を防ぐ意識が高まり、慎重に調査を進めるようになる

<リスク>
・通報者の都合で連絡が取れなくなってしまうと、事実確認が困難になってしまう
・十分な体制が整わない状況で調査を行うと、通報者の存在や問題となっている事件がバレてしまう
・無関係な第三者の通報の可能性が否定できず、詳しく質問しようにも状況的に限界がある

自社の問題を把握しやすくなった点においてはメリットがある反面、事件が本当に起こっているのかどうか不確かなまま調査を進めなければならず、調査する側の経験が不足していると消化不良な形で調査が終わってしまうことも否定できません。
また、通報者に対するフィードバックも、通報者が匿名で通報していることを考えると、機会を設けることは難しいでしょう。

とはいえ、原則として内部通報は、匿名での通報を受け入れなければなりません。
企業には、弁護士・社労士等の専門家に相談しながら、通報者に不利益が及ばないよう対応することが求められます。

匿名通報の受け入れは、自社の自浄性を保つ上で重要

風通しの良い企業と悪い企業を比較した際、どちらが従業員にとって働きやすい環境かは、比べるまでもないでしょう。
問題が経営者・人事まで届き、大きく膨らむ前に解決できれば、企業の自浄性は保たれます。

社内で問題が膨らんでいき、その渦中にいる社員が内部通報窓口を信じられない場合、やがてその問題は社外に広まるかもしれません。
内部告発という形で、一度問題が全国各地に広まってしまったら、自社のイメージ回復には多大な時間を要するでしょう。

場合によっては、経営者が連日マスコミに追いかけ回されたあげく、従業員を全員解雇して会社をたたむような結果につながるおそれもあります。
そうならないためにも、企業は匿名通報を積極的に受け入れ、その真偽を見極めつつ適切な対応を取る必要があるのです。

企業は匿名の内部通報(公益通報)にどう対応すればいい?

通報が届いた段階では、匿名の通報はどうしても疑わしく感じられてしまうものです。
内容が真実かどうかを確認するためには、詳しい手順を決めて対応することが大切です。

通報があったことを外に出さず調査を行う

内部通報窓口に通報された情報は、匿名か否かを問わず、徹底した秘密保持が求められます。
よって、まずは通報の事実そのものを外に漏らさないための体制を整えた上で、調査に乗り出す必要があります。

例えば、実際に調査を担当するメンバーは窓口の担当者以外のメンバーを起用するなど、外部から見て内部通報があったかどうかを推測させないよう配慮します。
調査の進め方に関しても、通常業務の流れに沿った自然な形で進めたり、あるいは逆に抜き打ちで調査を行ったりと、複数のパターンを用意してアプローチするのがよいでしょう。

アンケート・面談など社員に対するヒアリングを実施

事件の大きさにもよりますが、実情を把握する上で、社員の声を集めることは重要です。
そこで、事件に関するヒアリングを実施するためには、アンケートや面談の機会を設けることが効果的です。

匿名通報の場合、事実関係を調査するにあたり、直接的に事件に関連するヒアリングを行うのは難しいでしょう。
よって、パワハラ・セクハラ・横領など、現在自社で発生している疑いのある問題について、間接的に意識調査を行うような形で調査を進めていきます。

アンケートを実施する際は、メール・Webアンケート等の筆跡が分からないような形で、匿名で回答を集めます。
その際のテーマとしては、例えばパワハラなら「パワハラ防止法の意識調査」として、横領なら「国内・海外の横領事件に関する意識調査」などといった形で質問事項をまとめつつ、意識調査と連動させる形で「自社で同様のケースに近い場面を見た・聞いたことがあるか」を聞きます。

ただ、いくら匿名とはいえ、事実を書いたアンケートにつき、問題のある人物が目を通すリスクがある場合、社員は本音を書こうとはしないでしょう。
そこで、アンケートを実施するにあたっては、アンケートの読者が限定されていること・回答内容や回答の有無によって不利益な取り扱いは行わないことを明確にしておきます。

事実を認定し行為の善悪を判断

アンケートの結果を集計し、事件の全容が見えてきたら、次は面談で事実関係を把握します。
面談の内容については、記録を残して証拠化する観点から、聞き取った内容は書面にまとめ、本人に内容を確認してもらった後、署名・捺印をもらうのがよいでしょう。

具体的な聞き込みのポイントとしては、以下の内容を重点的に確認します。

・問題行為が行われた日時や場所
・目撃した場面、噂に出てきた登場人物
・具体的な発言や行為の内容

もし、事実関係を裏付ける記録があれば、メール・LINE等の記録もチェックしておきましょう。

弁護士等の専門家の意見をもとに処分を決定

問題行為の事実が認定されたら、当人に事情聴取を行うのと並行して、弁護士等の専門家に判断を依頼します。
過去の判例・事例に照らし合わせて、明らかにNGだった場合は、厳重な処分を決める必要があります。

逆に、行為の真意を確認した際に、被害者や周囲の認識が誤っていたと発覚することも考えられます。
事実を複数の角度から見て、最終的に企業は妥当な処分を決定することになります。

完全匿名でやり取りできる通報窓口の設置は大変

匿名の通報をもとに、社内の問題を把握して解決までの道筋を立てるのは、決してかんたんなことではありません。
そもそも多くの企業は、従業員と企業のやり取りが完全匿名で行える体制を構築する時点で、かなりの負担を強いられています。

そこで役立つのが、運用経験・実績が十分ある「外部委託機関」を利用することです。
一例として、完全匿名ヘルプラインのフォームを利用すれば、従業員は完全匿名で企業に通報でき、企業は通報者の匿名性を守りつつ、通報者とのやり取りができます。

完全匿名ヘルプラインのシステムと、弁護士・社労士・人事のエキスパートが連携しているため、困った際は助言を求めることも可能です。
現状、自社で匿名通報を受け入れることに不安を感じている企業担当者様は、まずは30日間無料トライアルからお気軽にご検討ください。

まとめ

匿名による通報は、企業も対応に苦慮することが予想されます。
行き当たりばったりの対応は、通報者にとって不利益となる結果を招くおそれがありますから、企業は慎重に慎重を重ねて対応できる体制を整えておきましょう。