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上司の理不尽な叱責に部下が反撃、悪いのはどっち?パワハラ6類型から考える

この記事は2021年4月5日に公開したものです。法令や制度はその後改正されている場合があります。最新の情報は「改正公益通報者保護法のポイント」「匿名の内部通報ガイド」をご覧ください。

上司から理不尽に叱られ、その場で言い返せたらどれほどすっきりするだろう…と思った経験のある方は多いのではないでしょうか。では、理不尽に叱責する上司に部下が感情的に反撃した場合、悪いのはどちらなのでしょうか。

結論から言えば、「上司の叱責がパワハラかどうか」と「部下の反撃が許されるかどうか」は、別々に判断されます。上司の言動がパワハラにあたるとしても、部下が暴言や暴力で応じれば、部下の側も責任を問われます。この記事では、厚生労働省の統計とパワハラの判断基準をもとに、ケース別の考え方と、反撃せずに自分を守る具体的な方法を解説します。

この記事の結論

  • パワハラかどうかは「優越的な関係」「業務上必要かつ相当な範囲を超える」「就業環境が害される」の3つの要素がすべてそろうかで判断される
  • 上司の叱責がパワハラでも、部下の暴言・暴力は正当化されない。部下が懲戒処分や「逆パワハラ」の加害者とされることもある
  • 冷静な反論や改善の申し入れは問題ない。感情的な「反撃」ではなく、記録・相談・申し入れで対抗するのが最も有効
  • パワハラを相談しても「会社が何もしなかった」という回答は約半数。安心して声を上げられる窓口づくりが会社側の課題

データで見る職場のパワハラの現状

まず、職場のパワハラがどれほど身近な問題なのかを、厚生労働省の統計で確認しておきましょう。

19.3%過去3年間にパワハラを受けたことがある労働者の割合(令和5年度調査)
1,055件精神障害の労災支給決定件数(令和6年度)。初めて1,000件を超え過去最多
224件そのうち、原因となった出来事が「上司等からのパワハラ」だった件数。出来事別で最多

厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)では、過去3年間にパワハラを受けたことがあると答えた労働者は19.3%でした。前回の令和2年度調査(31.4%)からは下がったものの、依然としておよそ5人に1人がパワハラを経験しています。

過去3年間にハラスメントを受けた労働者の割合

令和5年度調査・労働者調査

  • パワーハラスメント19.3%
  • 顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)10.8%
  • セクシュアルハラスメント6.3%

出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度、2024年5月公表)

パワハラは、心の健康にも深刻な影響を与えます。令和6年度に精神障害で労災と認められた1,055件のうち、原因となった出来事で最も多かったのが「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」で、224件にのぼりました。

精神障害の労災支給決定件数(出来事別・上位4項目)

令和6年度・単位:件

  • 上司等からのパワーハラスメント224件
  • 仕事内容・仕事量の大きな変化119件
  • 顧客や取引先等からの著しい迷惑行為108件
  • セクシュアルハラスメント105件

出典:厚生労働省「令和6年度 過労死等の労災補償状況」(2025年6月公表)

同じ調査で、パワハラを受けた人への影響を聞くと、「怒りや不満、不安などを感じた」が68.5%、「仕事に対する意欲が減退した」が61.1%でした。理不尽な叱責に「言い返したい」と感じるのは、決して特別な反応ではありません。だからこそ、その感情をどう扱うかが大切になります。

パワハラの定義と判断の3要素

パワハラ防止法(労働施策総合推進法)では、職場のパワハラを次の3つの要素をすべて満たすものと定義しています。1つでも欠ければ、法律上のパワハラにはあたりません。

要素内容ポイント
①優越的な関係を背景とした言動抵抗や拒絶をしにくい関係を背景にした言動上司から部下に限らない。業務に必要な知識を持つ部下や、集団による行為も含まれる
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動業務上明らかに必要のない言動や、手段・態様が相当でない言動指導の目的が正当でも、言い方・回数・時間・場所によっては範囲を超える
③労働者の就業環境が害される身体的・精神的な苦痛により、能力の発揮に重大な悪影響が生じる本人の主観だけでなく、「平均的な労働者がどう感じるか」が基準

つまり、「理不尽だ」と感じたかどうかだけでは判断されません。業務上の必要性があり、言い方も相当な範囲にとどまっている指導は、たとえ厳しくてもパワハラにはあたりません。一方で、指導の内容が正しくても、大声で長時間にわたって人格を否定するような叱り方をすれば、パワハラと判断される可能性があります。

パワハラの6類型と「該当しない例」

厚生労働省の指針は、職場のパワハラを代表的な6つの類型に分け、それぞれ「該当すると考えられる例」と「該当しないと考えられる例」を示しています。

類型該当すると考えられる例該当しないと考えられる例
①身体的な攻撃殴る、蹴る、物を投げつける誤ってぶつかる
②精神的な攻撃人格を否定する暴言、必要以上に長時間の厳しい叱責を繰り返す、他の社員の前で大声で威圧的に叱る遅刻などを再三注意しても改善しない社員に、一定程度強く注意する
③人間関係からの切り離し意に沿わない社員を仕事から外し、長期間別室に隔離する、集団で無視する新入社員の育成のため、短期間集中的に別室で研修を行う
④過大な要求必要な教育をせずに対応できないレベルの業績目標を課し、達成できないと厳しく叱責する育成のため、少し高いレベルの業務を任せる
⑤過小な要求気に入らない社員に嫌がらせとして仕事を与えない、管理職を退職させるため誰でもできる業務を行わせる能力に応じて、一定程度業務量を軽減する
⑥個の侵害職場外でも継続的に監視する、性的指向や病歴などの機微な個人情報を本人の了解なく暴露する配慮を目的に、家族の状況などについてヒアリングを行う

「理不尽な叱責」が問題になるのは、多くの場合②の「精神的な攻撃」です。令和2年度の同調査では、パワハラを受けた人が経験した内容として最も多かったのも「精神的な攻撃」(49.4%)でした。

「厳しい指導」と「パワハラ」の境界線

上司の叱責が「指導」なのか「パワハラ」なのかは、叱った内容よりも叱り方で分かれることが少なくありません。次の比較で、自分が受けた叱責がどちらに近いかを確認してみてください。

指導の範囲にとどまりやすい

  • 具体的なミスや行動を対象にしている
  • 改善の方法を示している
  • 1対1など、場所に配慮している
  • 時間が短く、繰り返していない
  • 口調は強くても、人格には触れない

パワハラと判断されやすい

  • 「無能」「辞めろ」など人格を否定する
  • 何が悪いのか示さず、感情をぶつける
  • 大勢の前で見せしめのように叱る
  • 長時間にわたる、毎日のように繰り返す
  • 机をたたく、物を投げるなど威圧する

また、部下の側にミスや問題行動があったとしても、それだけで上司のどんな言動も許されるわけではありません。ただし、部下の問題行動の内容や程度、それまでの経緯も判断材料になります。「自分にも非がある」と感じる場合は、なおさら冷静な対応が大切です。

部下の反撃、悪いのはどっち?ケース別の考え方

ここからが本題です。上司の叱責に対して部下が「反撃」した場合、どう評価されるのでしょうか。反撃の仕方によって、結論は大きく変わります。

部下の対応部下の側の問題考え方
事実と違う点を、落ち着いて説明・反論する問題なし誤解を解くための説明や、指導内容への意見は正当な行動。むしろ記録に残る形で伝えるとよい
「その言い方はやめてください」と申し入れる問題なし叱責の方法に対する正当な異議。後から相談するときの重要な事実にもなる
その場で大声で言い返す、暴言を吐く問題になりうる上司の叱責がパワハラでも、暴言は職場の秩序を乱す行為として注意や懲戒の対象になりうる
物を投げる、胸ぐらをつかむなど手を出す重大な問題懲戒処分の対象となるだけでなく、暴行罪・傷害罪などに問われる可能性がある。上司の非が帳消しになるおそれも
同僚と結託して上司を無視する、指示に従わない問題になりうる集団での無視や業務の妨害は、部下から上司への「逆パワハラ」にあたる可能性がある
SNSや社内で上司の悪口を広める問題になりうる内容によっては名誉毀損や侮辱にあたり、損害賠償や懲戒の対象になりうる

ポイントは、上司の言動の評価と、部下の言動の評価は相殺されないということです。上司のパワハラが認められても、部下の暴言・暴力が「やむをえなかった」として許されるわけではありません。逆に、部下が感情的に反撃したことで、もともとの上司のパワハラがうやむやになってしまうケースもあります。

「悪いのはどっち?」への答え:上司の叱責が業務上必要かつ相当な範囲を超えていれば、上司の言動はパワハラです。しかし、部下が暴言や暴力で応じれば、部下もまた責任を問われます。「どちらか一方だけが悪い」とはならず、両方が問題とされる可能性が高いのです。

部下が加害者になる「逆パワハラ」とは

パワハラというと上司から部下への行為を思い浮かべがちですが、厚生労働省の指針では、「優越的な関係」には次のようなケースも含まれるとしています。

  • 同僚や部下が業務上必要な知識や豊富な経験を持っていて、その協力がなければ業務を円滑に進めることが難しい場合
  • 同僚や部下からの集団による行為で、抵抗や拒絶をすることが難しい場合

つまり、「上司に反撃しているだけ」のつもりでも、集団で上司を無視したり、業務に必要な情報を渡さなかったり、威圧的な言動を繰り返したりすれば、部下の側がパワハラの加害者とされることがあります。特に、新しく着任した上司や、年下の上司に対する反発が逆パワハラに発展するケースは少なくありません。

反撃せずに自分を守る5つのステップ

理不尽な叱責に対して最も効果的なのは、その場で反撃することではなく、事実を積み上げて、しかるべき場所で是正を求めることです。次の5つのステップを参考にしてください。

  1. その場では深呼吸し、言い返さない感情的に応じると、自分の側に問題があったとされるきっかけになります。どうしても伝えたいことは「事実と違う点があるので、後で説明させてください」と短く伝えるだけにとどめましょう。
  2. すぐに記録を残す日時・場所・言われた言葉(できるだけそのまま)・その場にいた人・自分の体調や気持ちを、その日のうちにメモします。メールやチャットでの叱責は保存しておきます。
  3. 可能であれば録音する自分が当事者の会話を録音すること自体は違法ではなく、証拠として扱われることも少なくありません。ただし、社内規程で録音を制限している場合もあるため、扱いには注意が必要です。
  4. 信頼できる第三者に相談する社内の相談窓口、人事部門、社外の窓口などに相談します。上司本人やその上司に直接言いにくい場合こそ、相談窓口を利用する意味があります。
  5. 心身の不調があれば、早めに受診する眠れない、出社がつらいといった状態が続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。診断書は、職場に配慮を求めるときの根拠にもなります。

記録に残しておきたい項目

項目記録の例
日時・場所10月20日(月)16時ごろ、第2会議室
言われた内容「こんなこともできないなら辞めてしまえ」と大声で言われた(できるだけ言葉どおりに)
状況・きっかけ見積書の数字の誤りについて。指摘は約30分続いた
その場にいた人同じ課の3名が同席
自分への影響その夜眠れず、翌日は頭痛がした

記録は「いつ書いたか」がわかる形(日付入りの手帳、自分宛てのメールなど)で残すと、信用性が高まります。

相談先の比較

パワハラの相談先には、社内・社外にいくつかの選択肢があります。それぞれの特徴を比べてみましょう。

相談先メリット注意点
社内の相談窓口・人事部門社内の事情を踏まえて、配置転換などの対応をとってもらいやすい相談したことが上司に伝わらないか不安を感じる人も多い
会社が委託した社外の相談窓口中立の立場で話を聞いてもらえる。匿名で相談できる窓口もある会社が設置していない場合は利用できない
労働局の総合労働相談コーナー無料で相談でき、助言・指導や調停の制度も利用できる会社の外での手続きになり、解決までに時間がかかることも
弁護士損害賠償請求など法的な手段を具体的に検討できる費用がかかる
労働組合会社と団体で交渉できる社内に組合がない場合は、地域の合同労組などを探す必要がある

なお、パワハラについて相談したことや、事実関係の確認に協力したことを理由に、解雇などの不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています(労働施策総合推進法30条の2第2項)。

会社と上司がやるべきこと

「相談しても何も変わらない」という現実

部下が感情的に反撃してしまう背景には、「相談しても会社は何もしてくれない」という不信感があることも少なくありません。実際、厚生労働省の令和2年度の調査では、次のような結果が出ています。

35.9%パワハラを受けた後、「何もしなかった」人の割合(本人の行動で最多)
47.1%パワハラを知った後の勤務先の対応が「特に何もしなかった」
59.3%勤務先がパワハラの有無を判断せず「あいまいなままだった」

出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和2年度、2021年公表)

声を上げても動いてもらえない職場では、不満が蓄積し、やがて感情的な衝突として表に出てしまいます。パワハラ防止法では、2022年4月から中小企業を含むすべての企業に、相談窓口の設置などのパワハラ防止措置が義務付けられています。窓口を「置いているだけ」ではなく、実際に相談され、対応される仕組みにすることが求められます。

上司が気をつけたいこと

  • 叱るのは「行動」や「結果」であって、「人格」ではないことを意識する
  • 何が問題で、どう改善してほしいのかを具体的に伝える
  • 人前ではなく、1対1で、短い時間で伝える
  • 感情が高ぶっているときは、その場で叱らず時間を置く
  • 部下からの反論を「反抗」と決めつけず、まず聞く

上司の側も、自分では部下のためと思っていても、言い方や頻度によってはパワハラと判断されることがあります。感情的な叱責ではなく、問題点を具体的に伝えて改善を促す指導を心がけることが大切です。

会社が整えたい仕組み

  • パワハラの定義と禁止を就業規則などで明確にし、管理職研修を行う
  • 上司や人事を通さずに相談できるルート(社外窓口など)を用意する
  • 相談者が特定されたり、不利益を受けたりしない仕組みを整える
  • 相談があった案件は、事実を確認し、結果を相談者に伝える

よくある質問

上司の叱責に言い返しただけで、懲戒処分になることはありますか?

冷静に事実を説明したり、意見を述べたりするだけで懲戒処分になることは通常ありません。ただし、大声での暴言や威圧的な態度、暴力などは、就業規則に定める懲戒事由にあたる可能性があります。上司の叱責に問題があったとしても、それだけで部下の行為が許されるわけではありません。

部下から上司へのパワハラ(逆パワハラ)も成立しますか?

成立します。厚生労働省の指針では、業務上必要な知識や経験を持つ部下の協力がなければ業務が進まない場合や、部下や同僚の集団による行為で抵抗が難しい場合も、「優越的な関係」にあたるとしています。集団での無視や業務の妨害は、逆パワハラと判断される可能性があります。

上司との会話を、無断で録音してもよいのでしょうか?

自分が参加している会話を録音すること自体は違法ではなく、パワハラの証拠として扱われることも少なくありません。ただし、社内規程で録音を制限している場合や、録音データを不適切に公開した場合には、別の問題が生じることがあります。録音データは相談先や専門家に見せる範囲にとどめましょう。

相談したことが上司に知られるのが怖いです。

パワハラの相談をしたことを理由とする不利益な取扱いは、法律で禁止されています。それでも不安な場合は、名前を明かさずに相談できる窓口を利用するのも一つの方法です。会社が匿名で相談できる社外窓口を設けている場合は、そちらを利用してみてください。

1回だけの厳しい叱責でも、パワハラになりますか?

回数だけで決まるわけではありません。1回であっても、人格を否定するような暴言や、暴力を伴う叱責であればパワハラにあたる可能性があります。一方、業務上必要な注意を一定程度強く行っただけであれば、パワハラにはあたらないと考えられます。

まとめ:反撃ではなく、声を上げられる仕組みを

理不尽な叱責に対して感情的に反撃すれば、上司のパワハラが問題になるどころか、自分の立場を悪くしかねません。上司の言動と部下の言動はそれぞれ別に評価されるため、「相手が悪いから自分は何をしてもよい」とはならないのです。

叱責の内容や言い方に耐えられないと感じたら、その場で反撃するのではなく、記録を残したうえで、相談窓口などの第三者に相談しましょう。当事者同士で解決できない問題こそ、中立の立場にある窓口を利用するのが近道です。

しかし、「匿名性は守られるのか」「相談者探しをされて報復人事を受けるのでは」と、相談をためらう人も少なくありません。「完全匿名ヘルプライン」は、相談者の氏名・メールアドレス・IPアドレスを一切取得しない社外窓口です。相談者は匿名のまま会社の担当者と何度でもやりとりでき、会社は相談者を特定できないため、安心して声を上げられる環境をつくれます。無料トライアル期間が終わっても自動的に料金が発生することはないので、まずは気軽にお試しください。

あわせて読みたい:「ハラスメント相談窓口の設置ガイド」「匿名と完全匿名の違い」

本記事は2026年10月時点で公表されている情報にもとづいて作成しています。個別の事案については、弁護士などの専門家にご相談ください。

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